早稲田大学にて経営企画、WasedaVision150[1] 中長期計画の策定に携わられた井上常任理事に、早稲田大学の目指す教育事業の観点から、RA制度は学生に対してどのような教育的価値を提供できているのかお話を伺うべく、現役RAとともに対談を行いました。
井上常任理事からは、多様な寮生のサポートやRAチームの組織改革などRA活動に取り組む過程で、RAが国際的視野、社会的感受性や柔軟性、リーダーシップやチームワーク、問題解決能力を養っているとコメントをいただきました。またRA制度は学生が自らの学びを深められる多面的な成長の機会を提供しており、グローバルリーダーとしての資質を身につけることのできる重要なステップであるとの評価をいただきました。
下記対談の一部を抜粋してご紹介いたします。
[1] Waseda Vision 150:創立150周年に向けて – 早稲田大学 (waseda.jp)
Q1:早稲田大学の掲げる “グローバルリーダー” には、専門的な知識を学ぶだけでなく、国際経験やボランティア経験に裏打ちされた幅広い知識と、多角的な思考力が求められるように思います。これらを体験できた、寄与できたと思うところはありますか?
早稲田大学核心戦略2
2.グローバルリーダー育成のための教育体系の再構築 – 早稲田大学 Waseda Vision 150
「グローバルリーダー育成のための教育体系の再構築」“国際教育プログラムや留学プログラム、ボランティアなどの体験科目を通して幅広い知識と複眼的視点からの施行を身に着けたグローバルリーダーとなるに相応しい学生を育成する”
RA(秋元):国際学生寮WISHでは寮生が800人、1人のRAが25人から30人の寮生を担当するという環境の中で、統率力やコミュニケーション力、サポート力など本当にいろいろな力が求められています。ただリーダーシップをとっていれば良いわけではなく、多面的に寮生を捉えようとする観察力は、特に私は身に付いたと思います。
WISH RAは結構自分を強く持った人たちが集まっており、各人が違った考え方を持っている中で、それをどのようにすり合わせようかという過程が面白くて、だから私はこのWISH RAにかなりコミットしているのです。私もいろいろなアルバイトをしてきたからこそ分かるのですが他のアルバイトだと、典型的な業務(活動)をして終わりで、そこでの人間関係も終わりです。コミュニケーションといっても人間の深い部分までは知ることはありません。それだけで終わってしまうのは、すごくもったいないと思っています。WISH RAだとアルバイトのように明確なタスクや正解が決まっていないからこそ、価値観は人それぞれで、RA活動のやり方や考え方が出てきてしまう。だから積極的にコミュニケーションを取っていかないとチーム活動として成り立たない。WISH RAは人とのつながりを本当の意味で知ることができる場所だと思います。
井上常任理事:いまWISH RAとアルバイトの違いを表現されて、なるほどと腑に落ちています。つまりわれわれには、田中総長もずっと言い続けている、「たくましい知性」と「しなやかな感性」が必要で、まさにこの「たくましい知性」というのは答えがない問題とか課題を自分の頭で考え抜いて、いろいろなことに挑戦していかなければいけない。解決するためには1人ではなくて、チームでやる。チームということは、たぶん誰かがリーダーシップをとりながら行う。リーダーシップというのは、単純にぐいぐい引っ張っていけばリーダーシップがあるということではなく、権限がなくてもまとめ上げていって、たまにはフォロワーになったりしながらうまくチームとして問題解決をしていくことです。
もう一つが、「しなやかな感性」です。これは冒頭ちょっと言ったように、まさに人種、国籍、エスニシティ、宗教だとか、ジェンダーももちろんそうですが、いろいろな多様性がある中で、その多様性の価値観がものすごく相互にぶつかる。「これは違うな」と思っても、まずは尊重しながら、でも自分の考えを伝え、うまくつくり上げていくということが大切なんだと思います。また、専門の勉強は教室でやればいいのですが、そうでないところをまさにRAの活動が凝縮しているということを、ものすごく感じましたね。
もう一つ付け加えると、多様性という言葉は先ほど話したいわゆる人種、国籍、ジェンダーとかいうようなイメージですけれども、実はそれもまだマクロ的な見方でしかないような気がしています。本当の多様性というのは一人ひとりなのではないでしょうか。RAさんだって私だって、みんなもね。一人ひとりがもし国籍や出身地、ジェンダー等が同じでも、やっぱり全然違った考え方を持っている。一人ひとりに多様性があって、教育カリキュラムについて究極なことを言うと私は一人ひとりの多様性にあわせた、その人が望んでいる将来のためのカリキュラムがあってもいいのではないかと思っています。昔に比べて今は結構自由ですが、その学生のためにカスタマイズされたカリキュラム、124単位+αがあっても良いかと思います。まず主軸となる学問があって、さらに別な活動がある。それはRA活動であったり、もちろんスチューデントジョブ的なものとして他にもいろいろあるので、自分に合えば何でもよいと思います。ボランティア活動や外でのアルバイトももちろん良いと思います。
Q2 :大学としてのディプロマポリシーということで、6項目が全学共通ですね。
この項目を見た時、このキーワードとRAはかなりつながっているかなというものはありますか?
早稲田大学ディプロマポリシー
早稲田大学の3つのポリシー – 早稲田大学 (waseda.jp)
本学で学ぶ学生が身につける能力や素養として、以下の6つを掲げる。
- 構想・構築力:進取の精神を持って、伝統の殻を破る新しい概念を構築する力
- 問題発見・解決力:新たな問題を言語化またはモデル化し、解を提案、論理的に説明する力
- コミュニケーション力:能力や素養を活かすために、他者との相互理解を実現する力
- 健全な批判精神:社会および自然界の事象を多面的に捉え、既存の問題設定や解を健全に批判し、建設的な提案を行う姿勢
- 自律と寛容の精神:自主独立の精神を持って自他の個性を認め、公正な視点で多様性を受容する姿勢
- 国際性:「たくましい知性」と「しなやかな感性」を持ち、多様な人々と協働して世界の様々な問題の解決に当たることができる姿勢
RA(秋元):国際性に関してはもちろんですが、コミュニケーション力と自律という部分もつながっているところだと思います。
まずはコミュニケーション力についてですが、RAになってから自分を結構オープンにすることができるようになったと思います。それは、寮生と話す機会が多く、RAチームとのミーティング機会もたくさんあるためオープンになるような練習場面が毎日あるような気がします。そういう環境下では、RA活動においてコミュニケーション能力はかなり付くのではないかと思います。
自律は、これは本当に私が身に付いたと思います。一番はじめの頃ぐらい、RA歴1年弱ぐらいで付いたのですが、まずは時間管理とか体調管理とかをできるようになりました。高校生の時は実家暮らしだったので、何かちょっと忘れていても母がリマインドしてくれるという緩い気持ちだったのですが、RA活動とアルバイトをダブルブッキングしてしまった時に、「ああ、これ、自分で何とかしなきゃ」となるのです。そういう行き場のない状況からの自立心というのはすごく芽生えてきました。今でも健康を害することもたまにあるのですが、それは結構自分の中で自立心が整っていない時だったので、「ああ、いま自分、乱れているな」と客観的に自分を見つめる視点を持つことができるようになったと思っています。
私がこれから少し身に付けたいと思っているのが、健全な批判精神です。なぜかと言うと、やっぱりRAは同年代でできている組織なので、これを言ったら嫌われるかなと思ってしまう場面がどうしてもあります。しかし、嫌われないために言わないではなくて、組織を良くするために言った方が良いと思えるような精神を、もっと身に付けていきたいと思っている途中です。
井上常任理事:このディプロマポリシーはRA活動の一つひとつに、強弱はありますが関係していますね。学問の発展というものは、たぶん人と人との関わりが重要なのではないかと思います。悩みもだいたい人と人との関係です。自分1人じゃ絶対何もできなくて、人と人とが関わらないと良いアイデアも出ないし、問題も解決しない。人と人との関わりというものをどうすればいいのかという、たぶんそこが解決できないとリーダーにもなれない。そこがRA活動にはかなり凝縮されていて、日常的にそれをやっている。単純な先輩と後輩の関係でもないですよね。それなりの意識を持ちながら、指導というような、教育というものもある。RAの中でも、同世代といえども、「改革しなければ」とかいろいろなことを常に考えている。これ全部、人と人との関係なのではないでしょうか。職員に対しても、「こういうことはおかしいのではないか」とか、いろいろ考えていることを提案してほしいと思います。提案するといっても、何か文句を言っても人は動かないですから、人を動かすためには人と人との関係、どうすれば人は動くのかと考えることが重要かもしれません。
そういう意味では、人と人との関りにヒントがあり、そこはRAとしてのいろいろな活動の中にかなり包含されている。もちろん全てではないと思います。これから社会に出ると、もっと人と人との関係で無茶苦茶に大変なことが待っています。社会に出る前の一つの勉強であり、体験としては非常にいい活動ではないかと思います。